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百人一首

  フィンランドのカルタが注目されている。といっても、百人一首かるたではない。ここでいうカルタとは、フィンランドの教育現場で用いられている発想法の「カルタ(kartta)」で、フィンランド語で地図を指す。正確にはアヤトゥス・カルタ(ajatus kartta、アイデアマップの意)というそうで、簡単にいうと、紙の真ん中にキーワードとなる言葉を書き、その周囲に放射状に自由に関連する言葉やイメージをどんどん枝分かれさせて書き足していく技法を指す。できた図は、日本ではマインドマップあるいはメモリーツリーと呼ばれている。この方式だと複雑な概念を理解しやすいという。実際に作られたメモリーツリーを見ると、さながら樹状突起を広げた脳細胞のようである。
 なぜ今、このカルタが注目されているのか。OECD(経済協力開発機構)が2000年、2003年、2006年に実施したPISA(生徒の学習到達度調査)というものがある。文科省ウェブによると、PISAは15歳児が実生活の様々な場面で直面する課題に知識や技能をどの程度活用できるかをみるもので、読解リテラシー(読解力)、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について評価される。日本は毎回順位を下げており、教育関係者が日本の教育制度に危機感をもつようになった理由の一つともいえる。
 一方、フィンランドはPISAで連続して好成績を挙げている。そのためフィンランドの教育方法に世界中が注目し、日本を含め各国からの視察団の訪問が引きも切らないという。そのフィンランドでは低学年からカルタ(マインドマップ)を用いた発想法を取り入れている。PISAでの日本の順位低下イコール日本の生徒の学力低下と安易に結びつけるのは不適切という説もあり、一概に日本の教育方法がダメでフィンランドがよいというわけではないようだが、フィンランドの好成績は、低学年からこのカルタ(マインドマップ)を使って発想力を身につけているからではないかとも考えられ、いま教育界では、このカルタが熱い視線を浴びているのだ。このマインドマップは、コミック『ドラゴン桜』で紹介されたことでも有名になった。
 フィンランドのカルタについては競技かるた関係のメーリングリストMIKAの運営者、長谷和彦さんが教えてくださった。競技かるた選手というと文系と思われがちだが、長谷さんはコンピューターのプロで、ホームページ「みかきもりの本箱(www.hi-ho.ne.jp/hase/)」には競技に関するテクノロジーの話題も満載だ。
 さて日本語での「かるた」は、メリヤスなどと同じ外来語で、もともとポルトガル語のカルタ(carta、英語のcardと同義)である。かるた伝来は、16世紀末にポルトガルの商人が鉄砲などと同様に当時の遊戯用カード(playing card, いまのトランプの原型)を日本に持ち込んだことによる。遊戯用カードというものがなかった日本では、そのカードをポルトガル語のまま、カルタと呼んだ。そのうち、日本でもまねた「天正かるた」や「うんすんかるた」が作られるようになったが、こういったカルタは賭博に用いられたため、江戸幕府は何度も禁止令を出したという。そのたびにカルタ製造元は絵柄を変えるなどして対応していったそうだ。そういった禁止令対応策の一つとして19世紀初めには花鳥風月を描いた、花カルタ(花札)が作られた。ただし、同じかるたでも、短歌を書いた「歌かるた」や、ことわざを書いた「いろはかるた」は教育用として禁止令の対象とはならなかった。「歌かるた」の中でも小倉百人一首を書いた「小倉百人一首歌かるた」は最も人気で庶民にも広がり、今に至っているわけだ。
 小倉百人一首かるたの個人戦、競技かるたで10期連続名人となった西郷直樹名人について、あるテレビ番組がその強さの秘密を探ろうと名人の脳の活動を測定した。西郷名人とテレビ局スタッフの脳の活動を比較したところ、西郷名人は競技中に頭頂連合野という位置関係を認識する場所が持続的に活性化しているという結果が示された。また、西郷名人の場合、札を取るたびにα波が出ることが示された。α波というのは脳がリラックスした状態で出る脳波で、最近はやりの脳トレ関連の話題で「α波が出ると“脳力”がアップする」などといわれるものである。α波が“脳力”に本当に関係するかどうかの真偽は不明だが、このテレビ番組では、札1枚を取るたびに脳がリラックスするので、名人は集中力を持続することができるという説明であった。
 実際、札を取るときには、選手は最初の1音を聞き取るためにぎりぎりまで集中力を高める。あるスポーツコメンテーターはこれを陸上の100メートル競走のスタートに例えたが、まさにそれと同様の緊張度である。究極まで高めた集中力、緊張が札を取った瞬間に一気に解放されるのだ。なお前述の長谷さんに聞いた話だと、放映されなかったが、上記の番組での脳波測定の場には名人だけでなく他の競技かるた選手もいて、その選手の脳波も西郷名人と同様の結果を示したという。脳トレ効果があるなら、名人にならずとも、競技をやるだけでも効果があるだろう。

 ということで、フィンランドのカルタ同様、日本のかるたも、“脳力”アップになかなかよさそうだ。実際、かるた選手が「ぼけた」という話はあまり聞かない。できれば早いところ引退してくれると他の選手が勝ちやすくなるのになあという強豪選手がシニア世代になってもごろごろ存在するのが競技かるたの世界だ。かるた選手に引退年齢はない。生涯現役だ。お肌はしわしわになっても、脳はピチピチである。ということで、脳の老化が心配なそこのあなた、ちょっと、かるたをやってみませんか。(文:ストーン睦美)


クルンテープかるた会
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