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百人一首
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かるたの世界には、読手(どくしゅ)と呼ばれる人間がいる。ワープロソフトで「どくしゅ」と打つと毒酒、毒手などと変換され、怪しい文章になってしまうので要注意だ。かるた競技が他のカードゲームと大きく異なる点は、読手という「競技当事者ではない人間が必要な点」である。読手の存在がかるたを世界のゲーム各種の中でも極めてユニークなものとしている。
練習では通常、選手が交代で読むが、公式大会では資格のある読手が読む。名人戦や選手権大会など重要な大会で読む「専任読手」(現在7名)、公式大会のどの級でも読める「A級公認読手」、B級以下の試合でのみ読める「B級公認読手」とランクがある。読手は競技選手でもある人が多く、選手として一流であるほうが競技の勘どころもわかってよいらしい。専任・公認読手は厳しい審査をパスして認定されるが、これもアマチュア競技の悲しさ、丸1日読手を務めても「全日本かるた協会主管大会は交通費・昼食代のみ。一般会主管大会で交通費込み一万円程の謝礼」だそうだ。遠征に資金をつぎ込む選手もだが、読手もなかなか大変だ。
我が家は先日北京に移住した。北京の空気は全般に霞んでいる気がする。カサカサと乾いたグレーの粒子が空中にびっしり浮いているみたいだ。ぴちぴちとはいえないお肌はクリームを塗りたくっていないとすぐひび割れ、喉もなんだかいがらっぽい。こういう環境は、数百組が一斉に試合をする大会場で、マイクなしで1日に数試合読むこともある読手にはつらいだろう。実際、読手にはオペラ歌手なみの声量が要求される(読手はカラオケも上手い)。しかし読手といえども人間。競技中に咳き込んだりすることも稀にある。規定では、読手が咳き込んだりしたアクシデントの場合、「決まり字まで読んでいれば有効」となっている。例えば「秋の田の…」の歌の決まり字は「あきの」なので、「あきのゴホゴホ…」でもOK。選手は正しい札を認識できるので、問題なしとみなされる。
通常の練習会やクラブ活動では、参加者が奇数の場合はよいが、偶数だと1人が読手をやると選手が1人余ってしまう。こういうときに活躍するのが「コンピューター読手さん」だ。機械を通すとタとカ、チとシなどが聞き分けにくくなりがちだが、読み上げ専用機「ありあけ」(愛称ありあけ君)は、一見箱型ラジオ風のレトロな外観だが、聞き分けやすいと評価が高い。ただ電源が100V仕様なので、海外では使いにくい。
海外ではCDソフトが手軽だ。山下迪子(みちこ)専任読手が読む「小倉百人一首決定版」(神鋼ヒューマン・クリエイト製、愛称みちこちゃん)は、競技用・散らし取り用の読み、練習用ゲームや歌意解説も入っていて有用だ。
競技かるたでは、前の札の下の句と、次の札の上の句の間の、1秒の間(マ)が非常に重要視される。ランダム選曲機能で100首をランダムに読み上げるCDはいくつもあるが、通常の製品はこのマが一定でなかったり、長すぎたりして上級者の練習に適さない。
1試合の中でマにばらつきがあるのもタイミングが狂う。専任・公認読手は正しい発音で明確に読むだけでなく、一定したマで読む能力も要求される。選手はマの瞬間に緊張を極度に高め、次の札の上の句に集中する。このとき見学者がガサっとでも物音を立てようものなら、選手全員の突き刺すような非難の視線を一斉に浴びることになる。見学者の腕が動いて目の端に入るのも、集中をそがれ大迷惑だ。初心者が競技を見学する際には、読みが始まったら「音を出すな・動くな・息もするな」と指導している。
「ありあけ君」も「みちこちゃん」もマが一定している点で優秀だが、人間と違うのは、読む札を選択できない点だ。こういったソフトはどれも100枚をランダムに読む。しかし初心者だと「覚えた20枚だけランダムに読んでほしい」という状況が生じる。ワタナー校(注1)で指導するB嬢も「読む札を選べるソフトを」と熱望していた。
7人しかいない専任読手の1人、稲葉修至さんは「難波津いなばくん」(非売品)という読み上げソフトを自作するツワモノである。コミック『むすめふさほせ』(小学館刊、おおや和美著、タイ語版もあり)の監修者でもある。この稲葉さんに泣き付いたところ、早々に「いなばくん」で使用札を選択できる改訂版を作ってくださった。
千人毒手、じゃなくて、専任読手というと、バリバリ文系人間を想像しがちだ。稲葉氏が読む姿を名人戦放映でご覧になったことがある方も多いはずだ。和服をピシッと着こなしたその柔和な面立ちの裏に隠された真の姿は、コンピューターの専門家ではないかと類推するのだが、その正体は実は私もよく知らない。稲葉さんとは合宿で一緒に飲み明かしたりするが、かるた以外の生活は霧に包まれている。かるたの世界には、結構こういう謎めいた人が多いのだ。
(文:睦美ストーン)
(注1) Wattana Wittaya Academy。スクンビット・ソイ19にある女子校。5月にかるた部が設立された。
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クルンテープかるた会
代表者:坂東真由美
e-mail. ban_karuta@yahoo.co.jp
Mobil. 087-062-1631
バンコクでの練習会などについては上記へお問い合わせください。
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